時間旅行者の夢(79) [小説『タイムトラベラーの夢』]



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 有藤はといえば、その間もずっとレイナ・ランスロットが出て行ったドアを、恨めしげに見つめていた。そして、痺れを切らしたように烈しい口調で詰問した。

「あの二人が何をしているか調べてみるべきだと、きみは思わないのか?」

「たぶん入浴中でしょう」と、川田は答えた。


「いやに落ち着いているな!」
 と、有藤は怒鳴った。「彼を殺人狂と一緒に送り出したのだとしたら、呑気でいられるかね?
あの女の動作や表情に現われたいくつかの兆候からおして、安心は出来ないという気がするが」


 川田は太い眉をきゅっと上げた。
「殺人狂? 本当ですか、有藤博士? なんなら、その件に関して報告書を口述して頂いては?」


「それは時期尚早だろう」
 と、有藤は苦い顔で言った。「しかし、翠川君は保護してあげるべきだ。あの未来人の動機が、現代社会の風習やタブーで割り切れるとは断言出来ないのだし」


「そのとおりだわ」
 と、富岡早苗が口を挟んだ。「もしかすると毎週、男を人身御供にする習慣かも知れなくってよ。問題の大小に関わらず、レイナがわたしたちと同じ考え方をしないということを、忘れてはいけないわ」


 富岡早苗の真面目くさった口調からはどちらとも見当がつかなかったが、おそらく本気ではないのだろう。


 有藤の苛立ちの方は、あっさり説明がつく。彼自身が女好きを自認しているにも関わらず、レイナが到着するや否や、やすやすと翠川に先を越されてカッと逆上したのだ。


 そして瓢箪から駒というか、有藤が煩く言いつのったおかげで、それに辟易した川田が皆に話す筈でなかったらしいある事まで、うっかり口外してしまった。


「わたしの部下がレイナ・ランスロットの監視を続けていますよ」
 と、川田は言ってしまった。「完全な監視を張り巡らせてあります。レイナがそれを知っているとは思えませんが、あなた方も彼女にそれを知らせないで頂きたい。

翠川博士も男ですから、まさかとは思いますが、もしも何かあったら危険が及ばないよう考慮してありますので」


 有藤はあんぐり口を開けた。いや、ヒカルも、全員がである。

「するとなにか? きみの部下が、あの二人を見張っているというのか、今」

「お見せします」
 と、川田は不機嫌な声で言った。


 きっと余計なことまで口にしてしまった自分を、責めている最中なのだろう。彼はノートパソコンを鞄から取り出し、二、三の操作をした。


 すると画面にウインドウが立ち上がり、盗撮画面を映し出した。レイナ・ランスロットと翠川博士の動画だった。


 ここに居る誰もが密かに想像したとおり、二人とも素っ裸だった。シャンプーかリンスの容器か、あるいは蛇口あたりなのか分からないが、隠しカメラは膝の高さだった。


 レイナがカメラに背を向けて立っていて、彼女の顔までは写らないが、女性特有の丸味のある尻の形で分かる。

 その手前で翠川が彼女の背中を洗っているようだった。それは和気あいあいという感じであったが、翠川が嬉しそうな顔つきでカメラのほうに向き直ったとき、ヒカルは思わず目を覆った。


「こんなこと……!」

 盗撮など許されるのか、と隣りで言いかけた道長遥子は声を呑み込んでしまった。

 レイナもこちらに向き直った。広角気味のレンズは彼女の胸から下腹部も映し出した。湯に濡れた彼女の亜麻色の恥毛は、ヒカルがあの丘の上で見たものと同じだった。


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