時間旅行者の夢(73) [小説『タイムトラベラーの夢』]



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   17.レイナ到着

 翌日の正午、川田はメンバー全員に専用の携帯電話を貸与した。そして、ヒカルたち六人と共に東京駅に向かった。レイナ・ランスロットが羽田からそちらへ向かっていると知らされたからだ。


 着いてみると広い駅構内のあちらこちらは、時あたかもEOW教団のデモがたけなわだった。レイナがまもなくここに来ると聞きつけて、小手しらべの一騒動を企んだのだろう。


 彼らがなぜ、これほど早く情報を得たのか不明だが、辺り一帯は人体の海が広がっていた。意味不明のスローガンや卑猥な文言を書きつけた風船が宙を漂っている。


 警察は秩序の回復にやっきになっていたが、あまりの人数の多さに法も秩序も彼等を追い払うことは不可能に思えた。


 耳ざわりで不明瞭なEOW教徒たちの詠唱が、すべてを包みこむように鈍く反響していた。その、てんでんばらばらな叫び声から聞きとれるのは、
「破滅、終末、破滅」といった言葉だけだ。


 富岡早苗は完全にこの光景の虜になっていた。EOW教徒は少なくとも彼女にとって、未開人部落の呪術師と同じぐらい大きな興味の対象なのだ。その体験をもっと身近で吸収するために、彼女はそっちへ飛び出して行こうとした。


 川田が制止したときは、もう手遅れだった。早苗はすでに群衆目掛けて駆け出していた。
 髭面の終末予言者の一人が、いきなり手を伸ばして早苗の衣服を引きむしった。彼女の喉から腰のあたりまで、二十センチの幅で素肌が露出した。


 片方の乳房が勢いよく顔を出したが、それは彼女の歳から考えて意外なほど瑞々しく、そして痩せ型の体から見て意外なほど大きかった。


 彼女はその場の興奮に酔っているようだった。新しく見つけた恋人からEOW教団のエキスを吸収しようとでもするように、彼女を揺さぶり、引っ掻き、殴り付けるその男に夢中ですがりついていた。


 川田の命令を受けた三人の屈強なSPが、富岡早苗の救出におもむいた。先頭の一人はいきなり早苗から股蹴りをくらい、よろよろと仰け反った。そのまま、彼は押し寄せる狂信者たちの下敷になって、姿を消してしまった。


 続く二人は警棒を振りまわして教徒たちを追い散らしにかかった。
 怒声が上った。かん高い悲鳴がそこかしこで聞こえ、
「破滅、終末、破滅」の詠唱を掻き消した。


 そこへ半裸の娘たちの一団が列をつくって行進を始めたので、ヒカルや川田たちの視野は一時的に塞がれた。
 再び群衆が見えたときには、もうSP達が富岡早苗を連れ帰って来るところだった。今の経験は、早苗の顔つきまでを変えたように見えた。


「素晴らしいわ」
 と、彼女は感にうたれたように繰り返した。「凄い凄い、あの狂乱の絶頂感!」


「破滅、終末、破滅」と、辺り一面の壁がこだまを返した。


 川田が上衣を脱いでさし出したが、早苗は肌が剥き出しになったことも平気なのか、それともわざと見せつけたいのか、手を振って彼の申し出を断わった。


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