新入社員が女性上司と…(12) [小説『新入社員が女性上司と上手くやっていく方法』]



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   4.シフミにかかわると

 僕にとって問題なのは、詩史のほうだ。詩史と知り合ったら最後、彼女の人生のすべてに関わることになる。
 ナッキーはそれを楽しんでいるが、僕は辟易していた。


 入社以来、詩史の友人の引っ越しを手伝わされ、なぜかビデオムービーのエキストラをやらされた。


 これもなぜか着物の着付け教室のモデルになったし、女ばかりのホームパーティーに出されて、ホスト役で十人以上の年増にお酌した。
 辞書を片手に懸賞応募原稿の下読みと校正をしたのは、まだ仕事らしい方だ。


「温泉に連れて行ってあげる」と言われ、

「いいですね」とお愛想を返したら、

「車、出して」と命じられ、

 結局はドライバー役だったこともある。


「知り合っておくと役に立つ素晴らしい人がいるわ」

 と言われて会うのを承諾すると、遠くにいるから「車、出して」と……。


 行ってみると、相手は奥深い山中に棲む陶芸家で、山菜料理を食べながら呑んだくれただけで、知り合ったからといってどんな役に立つのか、皆目見当がつかない。


 要はこんなのばっかりなわけだ。


 詩史はペーパードライバーだから、友人に運転を禁じられているという。僕も、それには同感する。
 だからといって、お抱え運転手扱いされては堪らない。


 それでも素直に、
「頼むわね」
 と女らしく言ってくれればまだ許せるが、こっちの気を惹くようなことを言って誘い出す手口が癪にさわる。


 策を弄するから、騙されたような気分になって鬱憤がたまるんだ。口惜しいから、用事を足したあとの奢りの食事はしっかり食べる。食べながら文句を言う。

「編集長、今日は疲れました」


「なに言ってるの、若いのに。わたしが二十代の頃は三日くらい徹夜しても平気だったわよ」


 自分を基準にするな、と僕は思い、
「編集長はモテるんでしょう。ほかにいないんですか、使える男」と皮肉ると、


「わたしのボーイフレンド、みんな年上でさ。腰が痛いのー、目が覚束ないのー、狭心症の発作が出るのー言っちゃって、下手に用事頼んだら救急車呼ぶ羽目になりそうなのばっかりなのよ。昔はみんな、頼もしかったのに」と言う。


「年下探せば、いいじゃないですか」


「そうしたいのは山々だけど、わたし、ファザコンだから、どーしても年上になっちゃうのよ」


 ああ言えばこう言う。ちっとも反省してくれない。


 いつだったか、詩史の古い友人だという女性デザイナーを紹介された。彼女は僕を見て、意味ありげに笑った。

「あなたが、詩史さんの新しい彼?」


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