時間旅行者の夢(68) [小説『タイムトラベラーの夢』]



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「気分はよくなって?」とヒカル。

「ええ、かなり」と、川田は答えた。「余計な話で済みませんでした」


「いいさ」フィルが割り込んだ。「きみが優秀な弁護士だったという話は認めよう。ただ、世界が明日にも終末を迎えることを望んでいたようだがね」


「単なるムードですよ。宗教的なところは、これっぽっちもない。これからは、あなたをフィルと呼んでもいいですか?」

「もちろん。ヒカルもそうしてる」


「どうも。じゃあいいですか、フィル。いまの僕はしらふだし、これから言うことは真剣に受け取って欲しい。僕はあなた方に嫌な仕事を押しつけたのかも知れないと、申し訳なく思っています。

もし、あなた方があのインチキ未来人のお守りを務めているあいだに、息抜きをしたい時があったら、いつでも僕にそう言ってください。まあ、そうはいっても僕自身の懐が痛むわけじゃないので、なんなんですが……」


「よろしくお願いします」

 そう言ってヒカルは、バッグを片手に席を立った。

「たとえば、今夜ですがね」
 ヒカルの遠ざかる背に目をやってから、川田は言った。「今回の件では急に来られたので、お友だちと打ち合わせの暇もなかったでしょう。お相手は要りませんか? 夕食の後とかの」


 えらくまたご親切なことだ。女性の話相手をあてがってくれるというのか。
 フィルは答えた。

「サンキュー。だが、今夜はひとりで辛抱するよ」

 すると川田は慌てたように、
「あ、失礼。そういう意味では」と言った。「失礼ですが、天谷ヒカルさんとは」


「古い友人です」

「魅力的な女性ですね」

 それを聞いてフィルは言葉を付け足した。

「今夜は考え事もあるし、わたし自身まだ、こちらの生活にも慣れていないので」

「遠慮なら無用です」

 そう言う川田の言葉にフィルは肩をすくめて、その話題を脇へそらした。


 二人が小さなクラッカーをポリポリかじり、バーのサウンド・システムから流れてくる遠いスピーカーの音を聞くともなく聞いていると、ヒカルが戻って来た。


 フィルは腰を浮かせて、彼女の着席をフォローした。
 すると、川田はレイナ計画委員会のメンバーについて話し始めた。


 人類学者の富岡、心理学者の翠川、といった顔ぶれらしかったが、ヒカルもフィルも人物について知る由もない。


「先ほどは、ああは言いましたが、調査には手を尽くしましたよ」

 と川田は言った。「つまり過去に反目とか、それに似た関係のある人たちを同じ委員会へ入れたくなかったんです。そこで、そうした関係をチェックするために、あらゆる資料を調べました。

いや、大変な作業でした。委員会の某メンバーと、つまりその、意見を戦わした経緯があるかどうかということで、せっかく有望だった候補者を二人も見合わせなくちゃならなかったり。あれには、がっかりしましたね」


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