時間旅行者の夢(64) [小説『タイムトラベラーの夢』]
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15.政府への協力
会議室は四人になった。
「わたしとしては懐疑的にならざるを得ません」と、フィルは答えた。
彼はここへ呼ばれて嬉しそうだったし、その表情を隠すこともしなかった。今後、事あるごとにヒカルと行動を共にし、勝手な動きを取らないことを条件に仲間に加わった。フィルが、ヒカルと共に英語と日本語の両方を解することも、大きな利点だった。
そこで先ほど、ヒカルが「自分には無理だ」と答えた川田の要求に対して、さっそくフィルが応じたというわけだ。
フィルはつづけた。
「なぜなら、今までは個々の電子の時間逆行にしか成功していないからです。しかも、その際に破壊が生じます。
つまり、レイナ・ランスロットが主張するタイムトラベルを説明するためには、まず、いかにしてそれだけの大きな質量を変換しうるかという疑問と、次に、彼女の身体を構成している物質が、なぜ、この世界との接触時に破壊をもたらさないかという……」
川田の遠慮がちな咳ばらいに気づいて、フィルは話しを止めた。
川田は言った。
「どうも、わたしの言葉が足りなかったようです。実は、いますぐ答を頂こうというのではありません。だいたい四十八時間後までに、この件に関する一種の答申書を書いて頂けたら有りがたいのです。事務的な協力が必要でしたら、なんなりと申しつけてください」
「承知しました。他には?」
「レイナ・ランスロットの到着に際して、彼女の案内を務める委員会に加わって頂きたいのです」
「わたしが?」
「お二人ともです。先ほども言いましたが」
とヒカルに向き合った。「貴女はオークランドで最初にレイナに接し、彼女から信頼を受けた女性だからです。理由はそれで充分でしょう」
「分かりました」と、ヒカルは答えた。
フィルが近くに居ることになり、安心感がだいぶ違った。彼女は訊いた。
「その委員会には、他にどういう人が参加するんですか?」
「それはまだ口外できる段階ではないんですよ」
と川田が答えた。「しかし、おのおのの専門の学界で、それなりの地位を占めた方々だということは断言できます」
すると横からフィルが言った
「早く言えば、どのメンバーにもまだ了解を取り付けていない。今から強引に口説き落とすつもりだ、ということですね」
川田はまたもや傷つけられた表情になった。
「失礼しました」と、ヒカルは小声で謝った。
フィルは口角を上げて三人を見ている。
永嶋が難しい表情で言った。
「あなた方に例の訪問者と密接な連絡を保ってもらえれば、あの少女のいうタイムトラベルの方法についても、なんらかの情報を引き出せるのではないかとの考えなのです」
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